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インバウンド専門人材不足のDMO(観光局)

 

DMOもそうだが行政が行う事業においては、公募という形を取らざるを得ない。公のお金を有効に活用するという観点と請け負う事業者の決定に公平を期すという観点から、複数の会社から提案を募るのである。

 

そのこと自体は、正しいと思うし世界中で行われている理にかなった仕組みなのでそれは良いのだが、日本の自治体やDMOでは、受託事業者が決まると企画の設計から実施、成果検証までを事業者任せにする傾向が強い。お任せと言うと穏やかであるが、私の印象では、”丸投げ”である。

 

受託事業者の提案も利益優先&打ち上げ花火的な1発屋感満載の提案が多く、それらが本当の意味での成果につながる内容であるか疑問に思う反面、民間企業は、1回の事業で厳しく成果を求められるのだから仕方ないと思う部分もあるが、そうした受注者側の問題よりも、発注者である自治体やDMO(観光局)側の事業への取り組み方の問題のほうが大きいと思う。

 

つまり、なぜ、丸投げになるのか。

 

DMO側に的確な判断を下せる知識が足りなく、主体性に欠ける事業を毎年進めるがゆえに、結果が伴わないインバウンド施策となっている事が多い。その背景には、3年平均でスタッフが変わるのも致命的な理由として挙げられる。ようやく観光の分野に詳しくなったと思った矢先に、異動が待っているのだ。

 

腰を据えて地域社会のために貢献していくべき人材が、本来必要な場所で育成していくシステムがないのは、信じがたいがこれが現実なのである。

 

この問題の解決は一朝一夕に実現できるものはない。

 

つまり、マーケティングなどの専門人材に加えて、長期にわたって地域観光をマネジメントできる人材を確保する必要があるのだが、優秀な人材、専門人材、地域に継続してコミットできる人材の確保には、安定した財源の確保が欠かせない。そして、DMOの財源の仕組みを構築していくには、観光庁などの国からの支援に加えて、米国におけるDMOを支えるTIDBIDなどの法的な裏付けのある制度が必要となってくる。こうした制度の法制化には、国に直接働きかけるだけでなく、賛同するDMOが連携することや、関係者へのロビー活動も欠かせない。

 

しかしながら、これらの財源の仕組みづくりを含めた様々な問題を、地方側が真剣に取り組まない限り、観光振興を通じた地域の活性化の実現は難しいのであろうと思う。

 

広域、県、地域単位で変わるDMOのミッションや役割

 

昨今、国内においてDMOが次々と発足し観光庁に登録されているが、これらは、広域、県域、市単位、複数の自治体を跨るエリアなど、活動エリアの規模が異なり、その規模に応じて、求められる機能や役割は違う。

 

役割が違えば、ミッション・ビジョン、そして事業内容も変わってくる。

 

しかしながら、ここを踏まえた活動ができているDMOは、まだまだ少なく、広域のDMOとの連携や役割分担の整理がつかず、未だ、事業内容が定まらないと言った事例も聞くことが多い。

 

広域DMOとは

 

私が携わっているせとうちDMOは 、瀬戸内海に面する7県を瀬戸内エリアとしてまとめ、“瀬戸内ブランドの確立による地方創生を目指し、プロモーション、マーケティング、プロダクト開発支援を行い、瀬戸内地域の観光産業活性化を目的とする官民が連携した組織”とされている。

 

せとうちDMOでは2016年度の訪日外国人宿泊者数であった約290万人泊を、2020年までに600万人泊まで伸ばすことを目指す、アグレッシブな目標を掲げている。今現在は宮島、原爆ドーム、直島、など個々の観光資源が有名だが、同じエリアにこれらを含む多くの観光コンテンツが存在することは、意外と海外の方に知られていない。故に、多くの観光客は大阪から日帰りで広島の宮島と原爆ドームだけを訪れてUターンするなど、瀬戸内のエリアが、数日滞在できるエリア、もしくは“すべき”エリアだと認識されていない事が課題となっている。

 

当然ながらSETOUCHIというエリア名自体の認知が低いため、まずは、 SETOUCHIというディスティネーションとして浸透させることが必須と言える。その上で、外国人旅行者の滞在日数を増やすには、瀬戸内エリアに数多くのコンテンツが存在し、その価値や魅力を世界中に発信することで、訪れたいと思われるエリアにしていくためのマーケティング・プロモーションが必要となる。

 

こうした、まさにインバウンドマーケティングが、せとうちDMOの中核事業である。さらにこの組織ならではといえるのが、観光ファンドによるファイナンスや会員制度によるプロダクト開発支援の機能を持ち合わせている点だ。

 

訪れた観光客に対し、すぐれた商品・サービスを提供できてこその観光地としてのブランド化だと考えていて、プロダクトの提供を行う観光関連の事業者の動きを本気で支援する機能を備えている。

 

せとうちDMOは目標の達成に向けて、マーケティングとプロダクト開発支援、この二つの機能に特化することで、瀬戸内エリアの広域のマネジメントに取り組む組織だと言える。

 

また、海外の旅行者にとってエリアの情報がまとめて入手でき、具体的な滞在方法や旅程の組み方がまとまった情報を提供しているDMOは、便利でありがたい存在だ。そこで、せとうちDMOは、海外の旅行者にとって重要なポイントである体験コンテンツ、文化や歴史などの情報をまとめ、具体的にどう巡ればいいのか、点と点を線にしてつなぐことを行う。まさに7県にまたがる広域エリアのつなぎの役割を担い、旅の提案を行っていく機能も有している。

 

今後の課題として、常に新たな情報を海外に発信していくには、各県やエリア内のDMOと連携し、新たなコンテンツや魅力を積極的に集約し、そして発信していく必要がある。海外の旅行者にとって県の境目はあまり関係無い。どんなコンテンツが存在するかが最も重要なのである。

 

昨年1年でせとうちDMOは、海外市場にアプローチするための仕組みづくりが構築できた。2018年は、エリア内のコンテンツをいかに吸い上げ、それを確実に海外の旅行者に伝えていく、実践の年となる。

 

 

県・市単位のDMOとは

 

広域DMOのミッションがマーケティングとつなぎ役だとすれば、広域のエリア内にあるDMOはどういった役割が必要になるだろうか。

 

各県、市単位、そして地域連携など様々な規模のDMOがせとうちDMOのエリア内にも存在する。例えば、広島県の尾道市と愛媛県の今治市を結ぶ、しまなみ海道を活動エリアとする「しまなみジャパン」や、最近、欧米の外国人が多く訪れる祖谷渓を活動エリアとして含む「そらの郷」などがある。

 

広域DMOがマーケティング・プロモーションに注力し、海外から観光客を連れてくるための施策に集中する場合、エリア内の個々のDMOは観光客の受け入れ態勢に必要な対策に注力すべきだ。

 

県や市のDMOの役割とは、言語や交通系インフラ、例えば公共施設の洋式トイレの設置、主要交通機関での案内表示の他言語化、そして地域事業者と一体となり、インバウンド観光客の取り込みに向けた機運醸成などが挙げられる。

 

つまり、観光客が地域を訪れた際、彼らが安心して観光地を楽しみ、観光地にお金が落ちる仕組みを整え、観光地を潤う状態にすることが地域DMOの役割ではないだろうか。また、地域内の情報をまとめ広域DMOにタイムリーに情報を伝達する仕組みがあれば、広域DMOが海外に向け集中して行うマーケティング・プロモーションの仕組みを活用して情報は海外に広がる。

 

こういったエリア内のDMOの連携が強固な観光地作りを可能とし、協力し合う事によって旅行者数は増えるだけでなく、旅行者数の増加を通じて地域全体が潤うことに繋がる仕組みとなるのではないだろうか。

 

デジタルのマーケティング戦略に弱いDMO (自治体)

 

DMO=Destination Marketing Organizationとは、文字どおりマーケティング組織であり、魅力的な観光地として自らの強みを発信し、より多くの観光客に来てもらうことで地域の活性化につなげる組織である。

 

最近DMO論を説いた書籍が多く出版されているが、マーケティングが重要な組織だと書かれているにも関わらず、その内容は、組織論に終始し、DMOとしてやるべきマーケティング手法が一切書かれていないことが多く、強い違和感を感じる。DMOの一般論のみ語られても、実務を担当する人には参考にならない場合が多いのではないだろうか。

 

その違和感の最たる事例が、それがあたかも戦略なのかと思わせるほど、旅行業界においてデジタルを活用していないことである。世界中の旅行者が旅行先の決定のための情報収集において、約6割がデジタルを活用しているという調査結果がある一方、デジタルの領域に投じる予算の割合は各自治体、DMOともに低く、年間1回のみの旅行博への出店や商談会など、ノン・デジタルの分野に投じる予算が極端に多い。

 

旅行博に出店した、ファムを開催した、新聞・雑誌広告を出した、など解りやすい事業を年数回行った事に満足し、最も重要な事業のフォローアップや、効果の検証が抜けている。

 

また、デジタルに投じる予算の配分が自治体で増えないこともさることながら、その背景も問題だと思う。「前例のない事には予算が付きにくい」という傾向が強いということである。つまり、自治体における予算編成の段階で、財務当局などに説明する観光の事業担当部署が、事業の効果、正当性を十分に説明できないから予算が措置されにくいという現実がある。

 

簡単に言えば、財務当局の担当者がデジタルの領域について詳しくないから、予算措置の可否の判断がつかないというお粗末な理由である。結果、現代の旅行者の動向と、自治体のマーケティング手法との間に、著しいギャップが生じている。世の中の変化に付いて行けない、付いて行こうとしない姿勢の問題がそこに存在する。

 

一方、仮に予算が獲得できたとしても、自治体の担当者のハンドリングが十分機能しないため、冒頭に触れた丸投げになる恐れがある。

 

デジタルの分野は、テクニックに関心が行きがちであるが、事業全体の設計がもっとも大切だ。

 

動画配信やディスプレイネットワーク広告などのデジタルの媒体が数多くある。近年、極めて高いクオリティの動画を作成し、その視聴数を競う風潮があるが、これは本来のデジタルマーケティングの一部でしかないし、デジタルの効果を十分に活かしていないと言わざるを得ない。

 

DMOのマーケティングの目的は、最終的に訪れる旅行者を増やすことであって、動画の視聴者数を増やすことではないのである。動画の配信などのデジタルプロモーションは、認知拡大や来訪意向の増加が目的であり、本当の意味での成果である来訪者数との関係を整理しないままの事業は、不完全ということになる。このテーマは、極めて重要なことなので、改めて別の機会でしっかり述べたいと思う。

 

 

まとめ

 

DMOは、観光という分野を通じて地域社会に貢献できる、公な役割が大きい組織である事から、自治体や行政の関与は不可欠であると私は思う。(そもそも、そこの認識から外れているケースがある場合も多いが…)だからこそ、冒頭の記述にある通り、民間の事業者に主体性なく事業を丸投げする事に対して、やるせない気持ちが強い。一方で、デジタルや旅行商品造成など、自治体ではできない専門性が求められるプロジェクトも多数あることから、行政と民間企業の連携は今後さらに必要となる。

 

今、DMOや観光局に最も必要なのは、目標に向かって事業の全体を設計できる人材の確保とスタッフの教育だ。そして地域のためにやり遂げる、という情熱とロジカルな思考をもち合わせれば、自ずと受託事業者との付き合い方も変わるし、主体性を持って事業に取り組めるはずである。

 

このままだと、目前に迫ったラグビーワールドカップも、オリンピックも、一部の都市のみの盛り上がりで終わり、地方への恩恵が少ないまま過ぎ去ってしまう事態になりかねない。待っていても、外国人観光客は地方には来てくれないのである。

 

国際大会のチャンスを活かせない、そんな事態だけは避けたいが故に、私も観光庁インバウンド専門家として、日々地域でDMOの活動に奮闘している。